前向きニュース (2022年1月16日)


『意外ではあるが不思議ではない』

早朝まだ暗いうちから集まったグラウンドに届き始めた日差しが、終わりに近づいていることを告げている。

「あと70周!」周回数をカウントしていた水原コーチが残りの周回数を伝えたとき、「え〜」とリョウセイが言った。
まだそんなにあるのか、っていう嘆きの反応だと思ったら違った。
「それじゃ足りないじゃん」リョウセイの台詞はそう続いた。
スタート前に目標設定した1人35から40周するのに、残りの走れる回数が足りないと言うのである。
意外だった。
リョウセイは小さい頃から走るのが苦手で嫌いだった。そんなリョウセイからこんな台詞が出るのは、お父さんと一緒にランニングしたり練習を重ねながら随分と走り方が良くなってきたからだろう。

バトンを受け取ったショウノスケが勢いよく走り出す。
走るのが得意なショウノスケは、嬉々として走っている。得意だから好きなのか、好きだから得意なのか、明らかに野球をやっている時より楽しそうだ。
「リョウセイは何周?、ユウヤは何周か」と何度も聞いてくるのは負けん気の強さ故。いいタイムで走るから記録に貢献している。

前半バテて休んでいたユウヤが復活した。他の6年生との差を埋めるべく、何度も走る。これまでバテて休むとなかなか復活しなかったが、今日は前キャプテンの意地を見せてくれている。なにより、スタートして戻ってくる時の笑顔がいい。モテそうな顔だなと思った。

新キャプテンのリクは遅刻して来たが、途中から俄然張り切って走り出した。コウイチと争うように、6年生よりもたくさん走った。ピッチャーが走ることを嫌がらないのはいいこと。新チームのエースとして、走り込んで、今日見せたような姿を皆に示してキャプテンシーを発揮してほしい。

リクと競って走っていたコウイチも体力がついた。そもそもよく走る竹村家ではあるが、去年は妹のハユに負けていた。今年はお兄ちゃんの面目躍如、よく走った。マラソン後に副キャプテンに選ばれたことが発表された。リクと一緒にチームを引っ張って行ってほしい。

ユウヤが転んでなかなか立ち上がれなかったときに、駆けつけてバトンを拾って繋いでくれたのがリュウだった。ファインプレイ。リュウは案外そうやって周りを見ている時があるし、助けてくれたり、しっかりしているなと思わせるところがある。淡々と黙々と、ちゃんと設定された目標30周をクリアした。

気がつくとケイタが走っている。そんな感じでよく走っていた。高学年に負けないように、何度も何度も走る姿は安定感がある。野球の時にも構えがいいし、フォームがきれいだ。フォームがいいと確実に上手くなる。走る姿も同様にいいフォームだ。今年のチームでは大事な存在だから、体力つけて益々上手くなってほしい。

ハユもまたフォームがいい選手だ。球を捕ったり、打ったりすることはまだまだだけど、捕球姿勢もバッティングフォームも結構いい。走る姿勢もいいからもっと速くなりそうだ。去年彗星の如くこのマラソンでデビューして、今年もしっかり走った。

このフルマラソンではバトン渡しでロスしないことがとても重要。なんせ421回もバトンタッチがあるのだから、1回1秒遅れただけで7分ロスする。
毎年バトンタッチがいい加減になって無駄な時間がかかるが、今年はちゃんとしていた。
初めてこのマラソンに参加したメンバーもちゃんとやれていたのが素晴らしかった。

その筆頭がユウスケだ。
バトンを受けとると嬉しそうに飛び出して、そして嬉しそうにバトンを渡す。小さな体でちょこちょこ走る姿が愛らしくて、そしてあんなに嬉しそうに走っているとこっちまで嬉しくなる。ユウスケの笑顔は周囲を明るくする。チームに欠かせないムードメーカーになりそうだ。

コウキも張り切って走っていた。入部当初はランニングで時々ついていけないこともあったけど、練習を重ねて確実に力がついていると感じる。バットスイングも速くなったし、家でもちゃんと素振りやっているんではないだろうか。コウキも30周、こんなにしっかり走れるとは驚いた。

3周走ってバテて休憩していたシュンが復活した。しかも復活してからが強い。野球の練習の時も一旦バテるけど、決してやめないのがシュンのいいところだ。ここまで走れるとは思わなかった。お父さんとお母さんも一緒に走ってくれて嬉しそうにしていたが、そういう応援に支えられて、きっと強くなるし、上手くなる。とても楽しみだ。

カイトは今年も最後まで走り切った。去年よりも4周多い29周。カイトも確実に体力がついていると思う。普段やっているサーキットトレーニングでもちゃんとついてくるし、慣れていない高学年よりも上手にジャンプやラダーまたぎをこなして行く。今年は出番も増えるだろうから頑張ってほしい。

昨年このマラソンで快走したハユは彗星のごとく現れたが、サクラは満を持して登場した。体験練習での前評判通り、バテる様子もなくしっかりと走っていく。体格のいい黒いウエアのお父さんが猛追していく姿は「逃走中」を見ているような迫力だった。
入部も決まり、頼もしい新戦力が入ってきた。

例年通り、最後は前キャプテンのユウヤから新キャプテンのリクにバトンが渡り、ゴールはホームベースへのヘッドスライディングで完走。
ヘッドスライディング
2時間48分20秒

目標タイムには届かなかったが、とても充実感があった。
いつもは途中でリタイヤする選手が何人もいたり、いい加減なバトンタッチになったりすることが必ずあって、ダレる時間帯があるのだが、今年はそれがなかった。
下級生も日頃の練習の成果か随分体力がついて誰も抜けなかったし、上級生も全員が目標周回数を走った。
負傷して今回不参加だった足の速いリュウノスケがいたら、もっといい記録になっていたはずだ。

32名のOBや大人たちにも助けられた。
開始時点で走れる大人が17名もいたことはかつてないことで、この大人たちの気合に選手たちも後押しされたのだろう。

記録は予想通りだったが、中身は期待以上。意外な内容だったが、それぞれの選手の力を考えれば不思議ではない。

2022年の新チームが楽しみになってきた。

つづく


池谷