前向きニュース (2018年11月7日)


『悔しさへの成長』

サドンデスは、サッカーのPK戦のようなもの。トーナメントで勝ち負けをつけるためにやるジャンケンみたいなものだ。
PK戦はサッカーじゃないというように、サドンデスは野球じゃない。だからサドンデスで負けても野球で負けたわけじゃない、と頭で考えてみたものの、悔しい。
「勝てた試合」というのはこれまでにもあった。でもそれは正しくは「勝てたかも知れない試合」だったが、今日のこの試合は本当に勝てた試合、勝っていた試合、勝ち切るべき試合だった。それがとても悔しい。

エースのユキトはコントロールも良く、素晴らしいピッチングだった。一体いくつ三振を取っただろうか?たぶん1つの内野ゴロ以外は全て三振アウトで100球を超える球を投げ抜いた。これだけ投げたら球が上ずってコントロールが乱れるものだが、体力がついたものだ。試合前の過ごし方を学んで、無駄にはしゃがなくなったので、試合の入り方が良かったのも奏功した。

唯一の三振以外のアウトは初回サードゴロをしっかり捌いたヒロムの守備だった。どんな試合でも最初のアウトは重要だ。その試合のリズムを作る。先頭打者で三振して半べそかいて、それでも切り替えてちゃんと守備して、大きな声出して盛り上げて、だんだんとチームの要になってきている。監督の指示で前の方で守ってきっちりアウトをとったヒロムはその後も自然と守備位置が前寄りになった。こうやって野球を覚えていく。

ヒロムの送球をきちんと捕球したのはトウイだ。Cチームレベルでは、アウトは三振とピッチャーゴロがほとんどだからバッテリーの次に一塁手が大切になる。その大切なポジションを任されている。4年生で固められた先発メンバーの中に唯一の3年生。試合になるとまだ緊張するのか、迫力に欠けるところがあるが、堂々とした態度、体格、雰囲気、いいものを持っている。相手の悪送球の間に必死に3塁まで走る姿が父親に似ていた。

トウイの後ろでライトを守るタイガはこのチームの四番だ。少年野球で四番ライトというのは珍しい。それだけバッティングが買われている証拠である。(守備に難ありとも言えるが)しっかりバットに当たった時の打球は鋭く強い、そんな迫力が四番を任されているのだと思う。弟のヤンチャが目立つのに反比例して落ち着いていく姿に兄としての成長を感じるのが頼もしい。

セカンドのテッペイはまだ実力を出し切れていない。二塁後方に上がったフライを追いかけたが最後のところで力を出し切れていない感じがする。難しいフライである。でもあれを追いかけられるのはセンスである。時々垣間見えるセンスの良さが、緊張や考え過ぎで表に出てこない気がする。コーチのお父さんと熱心に応援してくれるお母さんに見守られて、いずれきっと開花するのだろう。

チームの要のキャッチャーはハルトだ。フリーズでここ数年、3人目のハルトである。みんな違うハルトなのに似ているところもある。一つは自分が一番なところ、それからめげないところ、そして野球がすごく好きなところ。その思いが興じて周りが見えなくなることのあるハルトが、交代を告げられた後、代わったリョウセイに色々アドバイスしていた。交代させられてもくさらず、自分の気持ちを抑えてアドバイスする姿に成長を感じた。だからサドンデスの大事な3塁コーチャーはハルトが適任だった。

ハルトに代わったリョウセイが打席に立つ。ブツブツ言いながら、それでも打席では落ち着いていた。練習ではまだ好き嫌いを言い続けてはいるが、代打を告げられ打席に向かうまでの姿はしっかりしていた。状況を確認し、何をすべきかを理解し、自分の役割を果たそうとする態度は立派なものだった。無駄な球に手を出さず出塁した姿にちょっと風格があった。

ユウヤは、出番を想定していた。周りをちゃんと見れるから出番を心得ている。素振りから打席に向かう姿を自分なりに想定した気分は大谷翔平だったと思う。サドンデスでは三塁ランナーになった。サドンデスはバッターと三塁ランナーを誰にするかが鍵を握る。ユキトを最初のバッターにしたのは、それで三塁ランナーが足が速く、状況判断のできるユウヤになるということも決め手になった。結果アウトになったがあれは最良の選択であったと思う。

センターに上がったフライをタクミがグローブに当てて落とした。惜しい!たぶん見ていた全員がそう思った。今までだったらボールに追いつくこともなくワンバウンドでボールを後ろにそらしていただろうところを前に出てもう少しで捕球できそうだった。いつも遠慮がちなタクミのこういうプレーは、周囲に力を与える。大量点につながりそうなあの場面で、タクミのプレーがそれを防いだ。

この日外野へは4本飛んだ。そのセカンドへの送球を受けとめた、いや受けとめ損ねたのはコウタロウだった。ショートは頭が良くて守備がうまい奴が守るポジション、そこを任されるコウタロウは期待されている。まだまだなところはあるが、動きはいい。親父の心配をそのまま体現するからミスすることもあるけど、センスの良さを感じさせる。やがて落ち着いて、自分のプレイだけを考えられるようになると大化けしそうな気がする。

チャンスでコウノスケが打席に立った。まだピッチャーがマウンドをならしているのに、バッターボックスで構えている。「力抜け」ベンチの声に反応することなく、構えたままだった。緊張が伝わってくるその構えは、コウノスケらしい真面目さを表していた。今年の合宿でコーチ達皆んなからかわいがれられていたその真面目さがきっと力になる。大器晩成だらけのこのチームでその最右翼にいるのがコウノスケだろう。

たぶん、自分がこんな大事な役割を担うとは思わなかったのがショウノスケだろう。最終回レフトに入った自分のところに2球も打球がくるとは驚いたことだろう。でも、その2球を後ろにそらさなかった。正直、レフトに球が飛んだ時抜けるのを覚悟した。でもショウノスケは止めた。サドンデスの2塁ランナーとして、自分なりに状況について質問し、それを理解してランナーについていた。普段の練習からこんな態度でやってくれたらもっと上手くなるはずだ。

マオに一塁コーチをやれと言ったら、それは何をするのかと嬉しそうに聞いてきた。マオは野球のことを知っている訳ではない。ただ、弟のリュウや自分の同級生の男子が楽しそうに野球をやっている姿に触発されて入って来たんだと思う。そんな興味がいつでも新しいことにワクワクしている原動力になっている感じがする。好奇心は成長のエネルギーだから、大事にしてほしい。

その弟のリュウはインジケーター(ボールカウントやアウトカウントを記録するカウンター)に興味深々だった。最初主審の声が聞こえないからカウントできないと文句言っていたが、主審の動作で分かるようになってきて、ボールカウントを正しく教えてくれた。こうやって試合を集中して見る力を養いながら野球を覚えてほしい。

今年の春、選手は8人だった。フリーズだけでは試合ができない状態だったが、だんだん選手が増えてきて今は19人。初めは試合ができるだけで嬉しかった。やがて得点もできるようになり、惜しい負け方になり、勝てそうな試合を経て、初勝利をあげた。 あの頃、善戦することでもよかったと思えたし、負けても当然と思えることもあった。 でも今こうして、負けた試合がこんなに悔しい。
悔しいと思える成長を実感できるようになってきた。

スコアラーの水原コーチが試合時間は1時間46分だったと言った。
そんな長さを全く感じさせない試合だった。

お昼の時間を大きく超え、試合後ミーティングを終えてお弁当を食べた。
選手が皆んなで車座になって、楽しそうに食べている姿が微笑ましかった。

今年の試合もあと少し。まだまだ成長しながら、悔しさを晴らせるように力をつけてもらいたい。

池谷