前向きニュース (2016年5月15日)


『変化の兆し』

戸田に到着し、F面のグラウンドを通り過ぎた時、センターを守るハルが必死にボールを追いかけていた。ブナがそれに続いて走ってくる。
遠くで相手チームのランナーが2塁を蹴って3塁へと向かっていた。間に合う、早く止めろ!そう心で叫んだ。
やっと追いついたハルが中継へと投げ、ホームに届いたタイミングとランナーが走り抜けたタイミングはギリギリだったように見えた。
「ホームラン打たれちゃったか」と思いながらも、ハルとブナが必死に追いかける姿とちゃんと中継つないで惜しいと思えるぐらいのタイミングでバックホームできたことに変化を感じた。
2対0、聞けば先ほどと同じようなホームランを初回にも打たれての2点だという。
いずれもソロホームランというところに少し運を感じた。

少年野球の運は行ったり来たりを繰り返す。
1点取って、よし追いつくぞ、と思ったらタイチが3盗で刺された。
また点を取られる。でも1点。
チャンスにブナが牽制で刺された。
こちらが1点取ると、また1点とられる。
嫌な展開のようにも見えたが、ズルズルいかない。
4対2、エラーも四球もあるけれど、案外締まった試合がテンポ良く進んでいる。
テンポの良さを感じるのは集中力が切れていない証拠だ。

時計を見るとそろそろ70分が経過していた。
バックネット裏の本部席にいる藤田コーチに少し遠くから「最終回ですか?」と聞きに行ったら、頷いた。
最後の攻撃、1アウト後打席は代打オオマチ。
本家コーチに言われてベンチ裏で素振りを繰り返し、前の回に一旦呼ばれたから、心の準備は出来ている。以前よりも大きく構えられるようになって、迫力が増した。
初球は見逃しストライク。いつものように首を傾げる。
追い込まれると三振することが多いから、ファーストストライクから振ってほしかったけど、まあいい。
低めの難しそうな球に手を出してファール。
このまま三振する姿を何度も見ているからこちらも緊張する。
ストライクゾーンの広いオオマチは、見逃した球が横から見ているとストライクに見えるからその度にドキドキする。
ボール2つの後、低めの球を振りに行った。
かろうじてバットに当ててファール。
これまでなら空振りしてた球をカットできた。
成長したな。
そして、しっかり球を見極めフォアボール。

よし、行ける。そんな空気が流れた。
ここは代走出した方がいいと思っていたら、代走カンタ。
ベンチに迷いがない。これも成長。
カンタはピッチング練習をするようになってから集中力がついてきた。
周りの動きを良く見るようになって、プレーが丁寧になった。元々足は速いから、集中力がつけば心強い選手だ。
カンタの動きが気になった相手ピッチャーがコントロールを乱し、マオが塁に出る。

さあ同点のランナーが出た。
押せ押せになって来た。
バッターはキャプテンタイチ。
期待が膨らんだが、内野フライ。
隣で「キャプテンはチャンスにフライだな」と嶋田父がコウタの顔を見ながら呟いた。
落ち込むこともなく、ベンチに戻ってすぐに大きな声で応援するところも前キャプテン譲りのいいところ。
2アウトとはいえ、バッターは最も期待できるセイダイ。
セイダイは野球が分かって来た。昨日も試合形式の打撃練習で、ファールの後にプレイをかけなかったら、それを指摘してきた。

わからないことには意外と臆病なセイダイだが、わかると強い。
強気のセイダイが打った打球は強い内野ゴロ、野手がファンブルし、1塁ギリギリのプレーに足から滑り込み、セーフ。
強い気持ち、強い打球、強い走塁。強いプレーが相手をビビらせ、ミスを呼んだ。
相手のミスに乗じて二人のランナーが生還し同点!
ついに追いついた。
バッターはハル。
遠くからまるでそばにいるような大きな声でオヤジが叱咤激励を繰り返す。
ハルはすぐ弱気になるところがある。でも、さっきフライを追って行く姿やセンターフライをさばく姿に強さを感じた。
今外野で最も信頼できるハルのところに今日はいくつも球が飛んでいく。何度も打球をさばくうちに強気に出て行けるようになって来た。
期待が高まる。
3球目、セイダイが3塁へ盗塁した。送球がそれる。行けるか?判断に迷う場面で躊躇なくホームに突っ込んだ。ホームにいい送球が返ってくる。タイミングはアウト。
惜しい、と思った瞬間、キャッチャーがボールをこぼした。
セーフ!
湧き上がるベンチ。
タイムがかかる。主審が本部に確認して、「ゲームセット!」
逆転サヨナラ勝ち!!!
セイダイの強気の走塁が勝利を呼び込んだ。
幸運の神様は前髪しかないという。
弱気に後を追いかけても掴めないけど、強気で前に出て、チャンスと思った瞬間につかむとつかめる。
3盗でタイチがアウトになったシーン、いい攻めだった。相手の送球があまりにドンピシャだったけど、迷いのないサイン、走塁だった。
けん制でアウトになったブナは1塁で緊張していた。一生懸命サインを見よう、ピッチャーを見ようとするあまり、少し帰塁が遅れた。でも、頭から戻るブナを初めて見た。しかも2度。必死さが伝わるいいプレーだった。
1塁後方の難しいフライを飛びつくように捕球したマオのプレーも良かった。ノックであそこに打球が上がるとお見合いになるケースが多かったけど、自分が捕るという気迫が溢れたプレーだった。

この日唯一の1安打もユウダイも思い切りのいいスイングから生まれた。
そんな迷いのない、強気のプレーが徐々に流れを変えた今日の勝利だった。
数字を見れば相手の6安打に対してこちらは1安打。
相手のミスに助けられたとも言えるが、今日はこちらの強気が相手のミスを引き出した試合だった。
逆転サヨナラ勝ちなんて何年ぶりだろう。
途中までいい試合だったり、善戦するようになったり、あと一歩だったりしてきたこのチームの変化の兆しを感じる試合だった。

これを本物にして、次もまた強気で戦ってほしい。
(ゲーム内容に記憶違いの部分あるかもしれません、お許しを)


池谷