戸田で帰り支度をしながら雑談していた時、ハルが言った。
「この前は緊張していたから」
前の試合はあんなに泣いてたのにな、とコーチに言われたことに対する返事だった。
試合後のミーティングの時の子供達の顔つきが前の試合とは違った。
前の試合後は、コウタとタカオとハルが大泣きし、マオは大きな目を真っ赤にし、タイチは目が点になっていた。
そんなに緊張してたんだな~。
改めて、前回初めての試合に臨んだ子供達の気持ちを思った。
一人一人、今日の試合の感想を聞いたが、今日はちゃんと答えが返ってきた。
得点は同じ11対1。コールド負け。
ヒットもなく(ルイのは内野安打か)、結果から見れば惨敗である。
でも、選手達は今日は試合を振り返ることができるようになった。
ファイターズ・タカオは、初回は乱れに乱れたが、途中マウンドでハッパをかけたら立ち直った。
思うようにいかないことに気持ちが折れそうになりながら、自分を奮い立たせ、今日は打点が取れたということで満足した、とファイターズの監督に報告したことを聞いた。
そうやって自分のいいところを自分で見つけて、楽しくやっていってほしいな。
ハルは今日も空振り三振だった。
おっかながりのハルは、捕るときも、投げる時も、打つ時も最後に腰を引いちゃうようなプレーになる。
いつもそのことを注意するが、この2試合の空振りは攻めの姿勢を感じられて嬉しかった。いつもその姿勢で練習してほしい。
予定通り23日に試合が行われていたら、コウタはいなかった。
前日連絡を受けた時、正直困ったな、と思った。
まだまだ急造のキャッチャーだから、パスボールも多いし、周りを気遣う余裕もないけど、コウタはこのチームの要だ。
今日一番のチャンスでコウタに回って来て、よし、と思ったけど、三振。この悔しさを次につなげてほしい。
3回のチャンスでタイチに期待した。
結果は三振だったけど、これからもずっと期待をしていく選手だと思う。
前回は、サードで黒目がちな瞳を開いたままどこか別世界にいるような顔で守っていたが、今日はちゃんとボールが見えているようだった。
誰よりも野球が好きで、時々好き過ぎて自分の世界に入っちゃうけど、試合経験を積んで行けばちゃんと周りが見えるようになるだろう。
ルイは前の試合出られなくて泣いていた。
練習態度が悪いからだと言っても、本人にはよくわからないようだ。
でも、今朝は遅刻しなかった。
いつも誰かから何か言ってくれるのを待っているようなところがあるから、今日は練習中は一言も声をかけずに様子を見ていた。
すると、キャッチボールにも自分から入り、言われもせずにセカンドの守備練習に入っていた。試合に出るにはそういうことが必要だと少しはわかったのかもしれない。
唯一のヒットを打って、塁に出て、盗塁も決めて、よくやったとほめてやろう。
リンダイはまだまだ覚えなきゃいけないことだらけだ。
決まった時には素晴らしい打球を飛ばすし、バッティングの構えはいかにも打ちそうな雰囲気を醸し出す。
もっと力を抜いて柔軟に動けるようになったら大化けしそうな期待感がある。
伸びしろたっぷりな素材だ。
前の試合で、トモキだけが「楽しかった」という感想を口にした。
トモキは見た目よりも度胸がある。
ボールは怖がるくせに場は怖がらないようだ。
反応は良くないけど、いつも考えながらプレーしている様子が伺える。入ってきた頃に比べてずいぶん投げ方も打ち方も良くなってきた。
体がしっかりしてくれば、急にうまくなるかも知れない。
ファイターズ・ハクトもまた楽しそうにやっていた。
違うチームの中での練習なのに、最初から打ち解けて練習していたのが印象的だった。
あんな顔して練習してたら、教える方も楽しくなる。きっと上手くなるだろうな。
前の試合ピッチャーをやったマオの感想は「もっと投げたかった」だということをお母さんから聞いた。
昨日の練習でフライを鼻に直撃して、病院に運ばれた時は心配したが、腫れただけで何でもなく、ボールを怖がる様子もなかった。2年生の中で、最も頼りになる選手だと思う。
今日は塁に出て唯一の得点をあげた。
前の試合、小さな身体でマウンドに立つ姿は頼もしくも見えた。是非、エースになってもらいたい。
ケイスケは1年生なのにバッティングがいい。
今日代打で使いたかったが、チャンスが回って来なかった。今度は是非打席に立たせたい。
ケンジロウはもっとも試合中楽しそうだった。
6年生から可愛がられているから、試合中も6年生に教えてもらいながら、バットを引いたり、ボールを拾ったりイキイキとやっていた。
そうやって試合の雰囲気を味わって覚えて行ってほしい。
セイダイは、出る気満々なところがいい。
残念ながらまだ知らないことが多すぎて試合には出られないけれど、その、俺が俺が感は、素晴らしい素養だと思う。将来が楽しみだ。
今日いなかったユウダイは前の試合ではライトで固まって、置物のようだった。
今日いれば、ぬいぐるみくらいには柔らかくなっていただろうか。
最近ボールの捕りかたが良くなってきた。ライトゴロでアウトとってほしい。
反省会の後、もっと練習しなきゃな、ということで長いランニングをした。
「じゃあ、ランニング行くぞ」という言葉に誰も不満を言わなかった(ハルも)。
コーチ達も付き合って、子供達にとってはそれなりの距離だったけど、誰も脱落せずに帰って来た。
練習の厳しさ、大切さを熱く説く落合コーチと洲崎コーチに乗せられて、更にダッシュを繰り返し、それに全員ちゃんとついて来た(ルイも)。
上気したその顔がとてもいい顔で、また1つ成長したように見えた。
初めての緊張感、負ける悔しさ、練習の大切さ、色んなものを感じてくれたらいい。
この子達の少年野球の物語は始まったばかりだ。
池谷