戸田F面に到着したときマウンド上に赤い大きな身体の投手が見えた。
大きなフォームで、ズバッと速球を投げ下ろす。
「お~、迫力あるな~」
相手チームながら、いい投手だなと思った。
バッターボックスのユウトが、その球をセンターにキレイにはじき返した。
ナイスバッティング。
その後のショウもヨウヘイもアウトにはなったが、決して負けていない感じがした。
こんなピッチャーにちゃんと向き合えるようになったんだ。
感心した。
この6年生たちが4年生の頃、弱かった。
何とかなるのはケントくらいで、なかなかまともな試合にもならなかったっけ。
監督やりながら、この試合どうやって終わりにしたらいいんだろうと途方にくれたのを覚えている。
昨日の試合でタツマがピッチャーをやったと聞いた。
この学年のチームはそれが原点だった。
原点に戻ったその試合は、内容も原点に戻ってしまい、散々だったとも聞いた。
でも、勝った。
その結果がこのチームの成長を物語っている。
個々人の力がまだ低すぎて試合にならなかった2年前。
徐々に力がついてチームとして戦えるようになった去年。
ユウトが加わり、それぞれに自分のポジションを得て、その危なっかしくもうまいバランスでこのチームは戦い、前野地区で優勝し、今こうして新人戦優勝チームに対しても臆せず戦っている。
試合は、結局10対1で大敗した。
スコアで見るよりチャンスはあったし、勝てないことはないと感じる試合でもあった。
でも、やっぱり10対1なのだ。
試合後監督がポツリと言った。
「自滅だな」
相手に仕掛ける前に、チームとして力を発揮する前に、自らダメになっちゃう。
それは技術というより、気持ちだろう。
このチームは仲がいいと言われる。
チームのまとまりがあるとも。
それは素晴らしいことで、だから今日の相手にも怯まず戦えるようになって来た。
でも、みんなチームに頼っていないか?
チームに甘えていないか?
このチームは「オレが、オレが」という選手がいないからまとまりが良いという。
それはチーム力ではあるけど、お互いが依存し合うと弱くなってしまう。
今必要なのは、皆それぞれが「オレが何とかしてやる」っていう気持ちと行動だ。
ケント、全部アウトにするからショートに飛んでこい、って叫びながらバッターにらんでやれ。
ショウ、5年生にマウンド任せるなよ、オレがいつでも抑えてやるって気持ちで引っ張れよ。
ショウタ、ライトに飛んで来たら何がなんでも捕ってやるって気迫でボールに向かえよ。
ヨウヘイ、デットボールでも振り逃げでも、どんな形でも塁に出て、ホームに帰ってやるって思いで動き回れよ。
タツマ、絶対にホームは踏ませないって気持ちでボールを止めて、ホームを死守しろよ。
ユウト、全打席出塁だ。塁に出たら必ずホームに帰って来い。絶対に打つっていう気迫を前にだせよ。
見せてくれよ、そんな更なる成長の姿を。
君たちの成長を見られる前野フリーズでの最後の大会がもうすぐ始まる。
池谷