前向きニュース (2011年11月23日)


『親離れ、子離れ』

この時期の戸田橋は夕方になると気温が急激に下がる。
試合後のミーティングは、秋の陽のつるべ落としをずっとライブで体感できるくらい続いている。

そんなミーティングを見ながら、僕は思った。

父親にとって息子は自分の分身のように感じることがある。
息子の言動にものすごく怒りたくなる時、それは自分自身が感じている自分の嫌なところが見えた時じゃないかと思う。
息子を叱りながら、実は自分自身を叱っているかもしれない。

志村秋季準決勝、ライバルファイターズに惜敗して、選手以上に悔しがり、それを選手達にぶつける監督、コーチの熱い姿を見ながら、その熱さを共有しつつも羨ましくもちょっと微笑ましい気持ちになった。

皆んなの前でビンタを喰らったコウタは 1年生の時お兄ちゃんの後を追って入って来た。
前の年に入ったお兄ちゃんと一緒に来た時はまだ年長さんだった。
でも その時から身のこなしやボールの投げ方、捕り方はうまかった。
ずっと低学年を見ているが、1年生であれだけ上手いの選手は見たことがない。

そんなコウタにアオ、ヒロキが1年の時にいて、3年生の時は同学年でチームができるほどに選手が集まった。
この三人にケイラもいて、3年生では向かうところ敵なしと思えるほど強かった。
4年生でもそのまま強くて、こりゃあ6年になったら都大会に行けるぞ、と誰もが期待した。

でも、そうはいかないのが子供のおもしろいところだ。

皆んなそれぞれに個性が強くなり、力も強くなったからバットも振り回すようになり、力はあるのに勝てなくなった。
そんな6年生の試合を見つめていた。

先発のアオは表情を変えずにいつものように思い切り腕を振っていた。
相変わらず重くて速い球に見えるが、相手バッターはその球をしっかり捉える。

低学年の頃のアオの球は強烈に重くて速かった。
あの頃あんなに勝てたのはアオの力が大きいと思う。

だんだんと周りも力をつけて来たから、前のようには抑えられなくなって来たけど、それでも投げ方も、打ち方も思い切りが良くて、見ていて気持ちがいい。
一見愛想のないような態度は小さい時から変わらないけど、実は優しいところもある。
今年の合宿、合宿に参加したものの溶け込めず、皆と一緒に行動出来なかったヒロキを部屋まで迎えに行って誘ってくれた。
ヒロキはそれが嬉しかったのだろう、一緒に引っ張られてバーベキューにも参加して楽しそうな顔をしていた。
アオが誘ってくれたおかげだ。
思い切りの良さと優しさと、いい奴だなと思う。

そのアオの後を繋いでコウタがマウンドに上がった。
ピンチを迎え、マウンド上のコウタは相変わらずの仏頂面である。
普段や練習の時は笑顔がかわいいお母さん似の顔をしているのに、試合になると顔つきが変わる。

きっとコウタは誰よりも野球が好きで、誰よりも強い思い入れを持っているんじゃないかと思う。
だからいつも自分の出来に向き合いながら試合をしていて、うまくいかないとそんな顔になるんだろう。
その姿勢って職人ぽいなと思う。

そんな風に物事に思い入れできるというのは才能だ。
キャプテンでエースで、主軸バッターで、期待が大きい分たくさん叱られて、それでも野球への強い思いを持ち続けるその強さを大事にしてほしい。

ピンチになった時、声が聞こえてくるのはいつもユウマの声だ。
ショートでユウマが何かしら声をかけている。
ピンチの時もチャンスの時も何かしてくれそうな感じがして、見ていて楽しい。
相手からしたら嫌な選手だろうな。
メガネ姿が秀才風で、とても頭良さそうに見える。
こういう選手は重要だ。
チームにはいろんな個性が必要だが、その中で頭脳派は少年野球では貴重な存在である。
腰が悪くて休んでいた時も、戻って来てなかなか試合に出られなかった時も、いつも淡々として、そしていつの間にかチームになくてはならない存在になっていた。
体操で鍛えたその柔らかさそのままにしなやかな感じが大人びて見える。

トヨトもまた何かやってくれそうな雰囲気を持っている。
ラッキーボーイというのは普通は結果として存在するが、トヨトは常にラッキーボーイの気配がする。
人懐こい笑顔と同居するしたたかさがそうさせるのかも知れない。
トヨトは4年生の合宿の前に入って来た。
まだチームに十分には馴染んでいない中 、合宿を大いに楽しみチームに溶け込んだ。
合宿がいかに楽しかったかを父親経由で聞くと嬉しくなる。
一見派手さはないが、チームのムードメーカー(作る人)というかムードムーバー(動かす人)的存在でもある。

この試合、良くも悪くも目立っていたのはコウキだった。
一番打者のコウキは背が伸びた。
後ろ姿、特にお尻のあたりが父親そっくりで、ユニフォームがちょっとたるんだ感じになる。
チームに自分の子供がいる監督の気持ちは少し想像がつくが、父親が監督している選手の気持ちはどうなんだろう?
きっとそれなりに葛藤しながらやって来たんだろうなと思う。
低学年の頃、コウキはお父さんが監督であることが自慢だったと思う。
よく嬉しそうにお父さんから聞いた話をしていた。
高学年になり、そのことがそんな単純に自慢できることでもないことに気付いたんだろう、以前より練習中の口数が減ったように感じた。
もう少し大きくなって、話ができるようになったら、親父が監督している選手の気持ちを聞いてみたいな。
足が速くって、とてもセンスを感じさせるコウキは益々うまくなるんだろうな。
お父さんを超えるんだろう、楽しみだ。

今日の数少ないヒットの1つはダイキのセンター前ヒットだった。
タイキはいつも人を惹きつける。
ダイキがチームに入って来た時、ダイキの周りは輝いて見えた。
後輩達はダイちゃんに憧れたし、暴投ばかりなげているくせにいつも笑顔でなんか魅力があった。
思い切り投げて、思い切りバット振って、暴投するし、三振するのに憎めない。
こういう魅力は天性のものだと思う。
凡人は残念ながら努力してもこういう魅力は出てこない。
そんなダイキのヒットを久しぶりに見たような気がする。
今までより大振りでなく、しっかり捉えたバッティングに成長を感じた。

ヨシハルは悩んでいるのだろうか。
身体も十分、技術も十分にあると思う。
ヨシハルが入って来た時、この学年の必要なピースが埋まったと思った。
低学年の時から強かったチームには、あといくつかピースが足りなかった。
大きな身体で、きちっと球をさばけるヨシハルは、いくつかのピースを一人で埋めてしまうくらいの力を感じた。
その力を発揮しながら着実に成長していたと思っていたが、力があるが故に悩んでしまったようにも見えた。
成長が早い分、早い思春期なのかも知れない。
しかし、成長とともにこの時期は越える。
越えた後、この才能をどんなふうに活かすんだろうか、楽しみだ。

ミーティングの終わり頃、自らの心情を語った竹内監督は、「親離れ、子離れ」という言葉を使っていた。

3年生の時から4年間、ずっと楽しませてくれたこの子達とそれを支えた父親達にとって、親離れ、子離れの時期がやって来た。


あと1試合か2試合か、この個性の強い7名の6年生達にとって最後の試合が間もなく訪れる。

それぞれの個性がどんな風に発揮されるんだろうか。
どんな結果になっても、親にとっても子にとっても忘れられない試合になるんだろうな。

グッと冷えて来た戸田橋の空気が、秋の終わりとともにシーズンの終わりと、この6年生達との別れを告げていた。
毎年この時期、戸田橋の夕暮れは、ちょっと切なくもほのかに温かい。

池谷